大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和58年(ネ)943号 判決 1984年4月23日

控訴人 鎌田春三

竿代良一

右両名訴訟代理人弁護士 渡辺脩

被控訴人 株式会社東陽相互銀行

右代表者代表取締役 箸本弘吉

右訴訟代理人弁護士 野口利一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

理由

一  請求原因(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがない。

二  ≪証拠≫によれば、請求原因(三)の事実が認められる。

三  抗弁(一)について

控訴人らは、本件連帯保証契約締結に際し、被控訴人との間で、控訴人ら主張の特約をしたと主張し、右主張に添う原審及び当審における控訴人竿代本人尋問の結果、原審における控訴人鎌田本人尋問の結果、成立に争いのない乙第一号証が存する。

しかし≪証拠≫を総合すると、(1)城南建材は本件相互銀行取引約定締結と同時に被控訴人に対し、約束手形四通額面合計四一四万一、二四五円の手形割引の申込をし、被控訴人はその手形割引をしたが、右手形買戻債務につき、信用保証協会の保証は取付けられていないこと、(2)被控訴人は昭和四九年二月二八日城南建材に対し、単名貸出残高二二五万円、商手割引残高一、七二五万三、〇〇〇円を有していたが、信用保証協会の保証は付されていなかつたこと、(3)城南建材は昭和四九年五月二日被控訴人に対し約束手形二通の手形割引の申込をし、被控訴人は同年同月七日これを手形割引し、計五七七万三、三〇〇円を融資したが、被控訴人はその際右手形買戻債務のうち二〇〇万円部分についてのみ信用保証協会の保証を取付けることを条件にこれを実施したこと、(4)城南建材は昭和四九年六月一日被控訴人に対し約束手形四通額面計四五四万円の手形割引及び手形貸付一五〇万円の申込をし、被控訴人は同年同月五日その手形割引及び手形貸付をしたが、被控訴人はその際右手形買戻債務のうち一〇〇万円部分については信用保証協会の根保証、うち三〇〇万円部分については信用保証協会の保証を取付けることを条件にこれを実施したこと、(5)被控訴人は昭和四九年九月二七日城南建材に対し商手割引残高四一四万一、〇〇〇円を有していたが、これには信用保証協会の保証は付されていなかつたこと、がそれぞれ認められ、これらの事実からすると、被控訴人は城南建材から手形割引をするに際し、信用保証協会の保証が付されていなくてもこれを実施していたことが明らかであり、仮に控訴人ら主張の特約が成立したとすれば、被控訴人にとつてもまた控訴人らにとつても取引上重要な事柄であるから、これを後日の証拠として文書を作成する等の手続がとられて然るべきであるのに、そのような手続がとられたことを認めるに足りる証拠はない。以上の証拠及び事実に対比すると、≪証拠≫はたやすく措信できない。他に控訴人ら主張の特約の成立したことを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、その余の点につき判断するまでもなく、抗弁(一)は理由がない。

四  抗弁(二)について

被控訴人が昭和四八年九月一日城南建材に対し、手形割引等の方法によつて融資をすることを内容とする相互銀行取引約定を締結し、控訴人らがそれぞれ前同日被控訴人に対し、右相互銀行取引約定に基づく融資取引により城南建材が負担すべき手形買戻代金債務等の債務につき連帯保証したことは前示のとおりであり、≪証拠≫によれば、右融資取引及び連帯保証の期間及び限度額については別段の定めがなかつたことが認められる。

≪証拠≫によれば、城南建材は前記相互銀行取引約定締結当時建設資材の仕入販売等を業とする会社であつたが、一か月の売上が約七〇〇万円であり、これを支払期日三ないし四か月後の約束手形による代金回収をするので、融資限度を二、一〇〇万円ないし二、五〇〇万円と見込んでいたこと、被控訴人は城南建材に対し、信用保証協会の保証を得て、昭和五〇年一〇月三一日三、〇〇〇万円、同五一年四月三〇日七〇〇万円、同年一一月一日六四九万円を貸付けたこと、被控訴人は昭和五一年七月三一日本件手形(一)の手形割引をした当時、城南建材に対し、単名貸出残高三、九九五万円、手形割引残高三、〇七二万六、〇〇〇円を有していたこと、被控訴人は昭和五一年一一月三〇日本件手形(四)及び(五)の手形割引をした当時、城南建材に対し、単名貸出残高四、二六六万円、手形割引残高二、四〇四万二、〇〇〇円を有していたことが認められる。

ところで、≪証拠≫によれば、控訴人竿代は城南建材が前記信用保証協会の保証を得て被控訴人から貸付を受けた際にはこれに尽力したこと、控訴人鎌田は株式会社藤沢産業を経営していたが、同会社は被控訴人に対し借入金債務二、二三二万五、〇〇〇円を負担していたところ、城南建材は昭和四九年一〇月二五日ころ債務引受をしたことが認められる。

以上の事実によれば、控訴人らは昭和五〇年四月三〇日ころすでに城南建材において被控訴人に対し割引手形買戻代金債務二、五〇〇万円程度、信用保証協会の保証による債務四、〇〇〇万円程度を負担していたことを容認していたものと解されるから、本件手形買戻債務及び保証債務が取引慣行に反して不合理に拡大されたものであるということはできない。

控訴人らは、被控訴人は本件(一)、(三)及び(五)の手形につき控訴人ら不知の間に城南建材に対し手形割引をしたこと、控訴人竿代が被控訴人に対し、本件手形(三)及び(五)の手形割引につき信用保証協会の保証を取付けることはできない旨通告した、と主張し、原審及び当審における控訴人竿代本人尋問の結果中にはこれに添う部分があるが、当審証人森谷信司の証言と対比するときは、これをたやすく措信し難い。

また、控訴人らは、本件手形(一)ないし(六)は融通手形である旨主張するが、仮に本件手形(一)ないし(六)が融通手形であつたとしても、前認定の事実からすると、この事実をもつて直ちに、本件手形買戻債務及び保証債務が取引慣行に反して不合理に拡大されたものということはできない。

してみれば、抗弁(二)も理由がないものといわなければならない。

五  以上に説示したところによれば、控訴人らに対して、本件手形買戻代金残金計八一一万〇、九六二円及びこれに対する昭和五二年一〇月七日から完済まで日歩五銭の割合による遅延損害金の連帯支払を求める被控訴人の請求は理由があるから、これを認容した原判決は相当というべきである。

よつて本件控訴は理由がないのでこれを棄却する

(裁判長裁判官 岡垣學 裁判官 磯部喬 川﨑和夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例